広々とした茶畑に、たくさん並んでいる…扇風機?街灯にしては妙なところに立っていると思ったら、アレはいったいなんでしょうか?
これの正体は「防霜(ぼうそう)ファン」。霜除けの扇風機なのです。それってどういうこと?茶畑にある扇風機について、詳しく解説します。
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防霜ファンとは?
防霜ファンとは、茶や果樹に霜害が起こらないようにするための送風機。ウィンドマシーンとも呼ばれます。茶畑以外には、ナシ、モモ、リンゴなどの果樹園で使用されています。
寒くなると「放射冷却」といって、地表の温度は冷えますが、一方、茶畑の地上6~7m辺りには、「逆転層」という温かい空気の層ができます。防霜ファンは、逆転層を利用して地表に吹き付け、茶畑を温めるのが仕事です。
低温を感知すると自動的に稼働するようになっており、タイマーで設定した時間、動き続けるようになっています。ほかに強制駆動スイッチもついており、急な事態に対応することも可能です。
防霜ファンは3枚羽のものが多く、背も高いので雷対策もバッチリされているそうですよ。消費電力も大きく、機械の設置コスト・維持コストはなかなかのもの。しかし山間部などでは欠かせないアイテムでもあります。
扇風機といえば、暑い夏のおともです。暑さからお茶を守っている、と思っている方もいるようですが、その逆で、防霜ファンは寒さから守るものだったんですね。
霜害(そうがい)とは?
茶葉のもととなるお茶の木は寒さに弱く、とくに霜がニガテ。なかでも晩霜(ばんそう)、遅霜(おそじも)などと呼ばれる、春になってからの霜には大きな被害を受けます。
冬の間、お茶の木は休眠期間を迎えますが、温かくなって春が訪れると、新芽を出します。この新芽は「新茶」と呼ばれ、休眠期間にたくわえた栄養がギッシリ詰まっています。もちろん一番美味しいお茶になるため、値段も高めです。
日本中の人が待ち望んでいる新茶ですが、新芽が出てから収穫までの間に晩霜・遅霜がやってくると、大変なことになります!新芽はみずみずしく、たっぷりの水分をふくんでいますが、霜が降りると凍ってしまうのです。
一度新芽が凍ってしまったら、枯れてしまう葉も多く、生き残ったとしても組織が変質してしまい、もう新茶にはなりません。ひどいときには新茶全滅、なんてことも…!霜害はそれほど恐ろしいものなのです。新茶を霜から守る防霜ファン、頼もしい!
防霜ファンがなかったら…
防霜ファンは茶農家の強い味方。しかし電気もガスものないような昔の日本や、防霜ファンができる前は、一体どんな霜対策を行っていたのでしょうか?
まず、役場などが霜が降りそうなころに警報を鳴らし、農家の方々に知らせを出します。農家の方々は夜通したき火をしたり、たき火の熱気をうちわで遠くへあおいだりと、それはそれは大変な努力をしていたんだとか。
玉露や碾茶(抹茶の原料)、かぶせ茶などを生産している茶園では、防霜ファンを使わずに霜除けのシートをかぶせるところもあります。収獲前に寒冷紗(カーテン生地のような厚手の黒い布)やよしず(ワラを編んだ敷物)などで日光をさえぎるので、自然と霜対策になるのです。
ほかには「散水氷結法」という方法も。スプリンクラーで水をまいて、茶葉の表面に薄い氷の膜を張ります。水は凍るときに少量の熱を放出しますので、茶葉の温度が0℃に保たれ、霜害を防いでくれるのです。氷で霜を防ぐとは、科学の力ってすごい!
散水法は夜の間ずっと水を噴射し続けなければならないため、大量の農業用水が必要になります。もともと大規模な土地で、水やりにスプリンクラーを使っている茶園などでは、散水法を使うところも多いようです。
ほかには人工的に霧を発生させる装置などもあります。
「かぶせ」の美味しさは霜対策から生まれた?
お茶の木は、根でテアニンを生成します。テアニンは根から葉へ移動し、葉にたくわえられます。このテアニンとは、お茶のうま味成分のひとつ。リラックス作用があることで知られています。
テアニンは日光に当たるとカテキンに変化します。カテキンとは、お茶の渋味成分のひとつ。緑茶ポリフェノールと言われることもありますが、免疫力アップ効果など、体によい成分でもあります。
しかしカテキンが多すぎると渋くて飲みにくいお茶になってしまうので、日光を遮断する「かぶせ茶」が生産されるようになりました。抹茶の材料である碾茶(てんちゃ)や、玉露も、同じように日光を遮断して栽培されています。
この「かぶせ」技術ですが、実は霜対策だった、という説があるんです。霜害から茶葉を守るため、よしずで茶園を覆っていたら、いつものお茶より美味しくなった!というのが始まりだとか。偶然から生まれた発見だったんですね。
防霜ファンの弱点とは?
防霜ファンに唯一欠点があるとしたら、それは「音」でしょう。霜から茶葉を守るため、たくさんの防霜ファンが一斉にフル稼働したときの音は、なかなかのもの。慣れている茶農家の方はともかく、初めて聞いたらビックリするかもしれません。
しかし防霜ファンは新芽が出てから収獲までのごく短い間しか稼働しません。地元に住んでいても「稼働しているところを見たことがない」という人もいるんだとか。一度は見てみたい…かもしれませんね。
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